今回取材したのは、備前市美術館で開催中の「ティーカップ・メリーゴーラウンド ヨーロッパ陶磁にみるモダンデザイン100年」です。内覧会を見せていただき、そのときの写真と印象をもとに記事にしました。
備前市美術館は、2025年7月に備前焼の産地として知られる伊部に開館した新しい美術館です。今回の展覧会では、19世紀半ばから20世紀半ばを中心に、ヨーロッパ各地でつくられたティーウェアやコーヒーウェア、花器、室内装飾品などが並びます。
備前といえば、まず思い浮かぶのは備前焼です。土と炎がつくる落ち着いた器の町に、鮮やかな絵付けや金彩をまとった西洋陶磁が集まる。とても面白い組み合わせです。


展示室で出会う、陶磁器のメリーゴーラウンド
入ってすぐの大きな作品で、タイトルを思い出す
展示室に入ってすぐ、ガラスケースに収められていない大きな作品が目に入ります。
ティーカップやソーサーが並ぶ展示を想像していたので、最初は少し驚きました。大きな花器のようにも見えますが、細かな装飾が重なり、どこから見ればよいのか迷うほど存在感があります。そして、ふと「ティーカップ・メリーゴーラウンド」という展覧会名を思い出します。

遊園地のコーヒーカップには、中央に大きなポットや水差しのようなものがあり、その周りをカップが回っています。よく考えると、あの遊具自体が大きなティーセットのようにも見えます。
この展示も、ただティーカップだけを並べているわけではありません。カップやソーサー、ポット、花器、センターピース、ランプ、時計など、ヨーロッパ陶磁の世界をめぐるように構成されています。
そう考えると、入口で出会うこの大きな作品は、陶磁器のメリーゴーラウンドを象徴する存在のようにも見えてきます。
国を移るたび、色と形の見え方が変わる
今回の展示は、国別に構成されています。ドイツ、フランス、イギリス、イタリア、オランダ、デンマーク、スウェーデン、オーストリア、フィンランド、旧ソヴィエト連邦の作品が、それぞれまとまって並んでいます。
国別にまとまっていると、展示室を進む中で、色の使い方や形、装飾の細かさの違いが見えやすくなります。もちろん、そこには国の違いだけでなく、年代や窯、作家、当時の流行も重なっているはずです。
陶磁器に詳しい人なら、そこから国ごとの傾向や作家の特徴まで読み取れるのかもしれませんね。私にはそこまで説明できませんが、それでも青と白の印象が強い器、金彩が華やかな器、形がすっとした器など、目で見て分かる違いはたくさんありました。
まずは、その違いを比べるだけでも面白いです。難しい言葉で説明できなくても、並びが変わるたびに発見があります。


知っているブランドが、見る手掛かりになる
会場には、マイセン、セーヴル、ウェッジウッド、ロイヤル コペンハーゲン、アラビアなど、各国の窯やメーカーの作品が並びます。
私が名前と器の雰囲気を結びつけられたのは、ウェッジウッドやマイセン、ロイヤル コペンハーゲンなど、有名なブランドのごく一部でした。それでも、知っている名前を見つけると、知ったかぶりの気持ちがでて、ついつい笑みがこぼれます。
イギリスの展示でウェッジウッドを見る。ドイツの展示でマイセンを見つける。そこから隣の作品へ目を移すと、知らない窯の器も、ただ知らないものではなく、同じ国の中に並ぶ一つの作品として見られます。
私の場合、手掛かりになったのは、知っているブランドや自宅で使っている器でした。これは以前見たウェッジウッドに少し近い。このカップの形は、家で使っているものに似ている。そんなふうに、自分の知っている器と比べながら見るだけでも、展示との距離はかなり近くなります。
カップだから想像できる、使う時間
エスプレッソカップへの小さな憧れ
私はコーヒーが好きで、自宅にも何客かカップがあります。コーヒー用、紅茶用、兼用では、口の広さや深さ、大きさが少しずつ違うことも一応は知っています。
中でも、エスプレッソカップやデミタスカップのような小ぶりなカップには、少し憧れがあります。毎日のようにエスプレッソを淹れて、小さなカップで飲む暮らしは、私にはまだ少し遠いものです。
展示で小ぶりなカップを見ると、やはり目が止まります。ほんの少しの飲み物を、わざわざ専用のカップで楽しむ。その感じに、どこか惹かれます。

持ち手や深さから、使う場面を考える
小ぶりなカップに目が止まると、ほかの器でも持ち手の大きさやカップの深さが気になってきます。
この持ち手は指をどう通すのだろう。このカップには、どんな飲み物を注いでいたのだろう。ポットやソーサーまでそろったセットなら、どのような席で使われたのかも考えてしまいます。
もちろん、実際にはガラス越しに見る作品です。それでも、カップやポットは、今も私たちが使い方を知っている道具です。だからこそ、ただ眺めるだけで終わらず、手に取ったときのことまで想像できます。
こういう器を一度使ってみたい。自分の家にも置いてみたい。ガラス越しに見ていると、当時この器を選んだ人の気持ちまで想像したくなります。
写真に残すと、自分の視線が分かる
今回の展示では、一部を除いて多くの作品を撮影できます。作品ごとの撮影可否や注意事項を確認しながら、ぜひ来場の記念に撮影をしてみてください。全体の形だけでなく、持ち手、金彩、絵付け、ソーサーとのつながりなど、気になった部分へ寄って撮っておくと、あとから見返す楽しみがあります。
私は実用性や形を見ていたつもりでしたが、写真を確認すると、かなり派手な作品ばかり撮っていました。自分では落ち着いた器を見ているつもりでも、実際に目を奪われていたものは違ったようです。
二人で行くなら、それぞれが撮った写真を見比べるのも面白いと思います。同じ展示室を歩いていても、立ち止まる作品はきっと違います。
SNSでその想いを伝えてみても楽しいと思います。そして、だからこそ言いますが、実物をいろんな角度から見てみてほしいです。
展示のあとに、実際のカップを手に取る
ワイルドストロベリーで紅茶を飲む
展示を見終えて1階へ戻ると、入館したときにも見えていたミュージアムカフェがあります。
会期中は、ウェッジウッドの「ワイルドストロベリー」のカップで紅茶を楽しめます。白地に野イチゴの葉や実を描いた、ウェッジウッドを代表するシリーズです。
紅茶が運ばれてきて、最初に見たのはやはり野イチゴの模様でした。ただ、すぐに飲み始めたわけではありません。カップを少し回して、持ち手の付け根や、ソーサーへ続く絵柄まで眺めていました。

展示を見る前なら、ここまで見なかったと思います。カップの縁、持ち手、ソーサー。さっきまで展示室で気にしていた部分が、目の前の紅茶にもそのまま続いていました。
普段より、ずいぶんゆっくり飲んだ気がします。
限定メニューとコースターも楽しめる
会期中は、ティーソーダ、セミフレッド、コハルニカフェと備前市美術館が共同でつくったオリジナルパウンドケーキなども用意されています。
カフェでは、撮った写真を見返しながら、どの器が気になったかを話せます。最初に見た大きな作品は何だったのか、家で使うならどのカップがいいか。展示室の中では言葉にしなかった感想も、座っていると少しずつ出てきます。
会期中は、出品作品のデザインをあしらったオリジナルコースターも用意されています。展示で見た器が小さな絵柄になっていて、持ち帰ったあとも使える記念品です。
こういう小さなものが残るのは、少しうれしいです。展示の内容を全部覚えていなくても、コースターを見ると、あのとき見た器の色や形を思い出せそうです。
ショップで、今日から使える器を見る
展示室で見たブランドが、商品として並ぶ
カフェの隣にはミュージアムショップがあります。展覧会図録や雑貨、ステーショナリーに加え、会期中はウェッジウッドの「ワイルドストロベリー」と「フェスティビティ」、ロイヤル コペンハーゲンのカップ&ソーサーも購入できます。
展示室では作品として見ていたブランドの器が、ショップでは商品として並んでいます。値札が付いていると、急に「今でも買って使える器なんだ」と感じます。
ワイルドストロベリーのような華やかな柄だけでなく、フェスティビティのアイボリーとブルーや、ロイヤル コペンハーゲンの青と白など、落ち着いた色合いの器もあります。
思い出すのはあの日のコーヒーカップ
普段使いのフェスティビティから、コーヌコピアへ
わが家では、フェスティビティのアイボリーとブルーのボウルを普段使いしています。特別な日にだけ出す食器ではなく、料理を盛りつけ、洗って、また次の日にも使う器です。
ウェッジウッドというと華やかな洋食器を思い浮かべますが、日常に取り入れやすいシリーズもあります。展示を見たあとにショップへ寄ると、過去の作品と今の食卓が、思っていたより近いところにあるように感じました。
ショップでフェスティビティを見ているうちに、そういえば、以前は別のウェッジウッドもよく使っていたことを思い出しました。
棚にしまったままのコーヌコピア
思い出したのは、「コーヌコピア」というカップです。コーヒーにも紅茶にも使える兼用カップで、2014年に6,000円ほどで購入しました。
エスプレッソカップのような小さな専用カップにも憧れはありますが、実際によく使っていたのは、この兼用カップでした。濃い色と金彩を組み合わせたデザインが気に入り、コーヒーを飲むときによく使っていました。
カップとソーサーを出して、コーヒーをいれて、座って飲む。今思うと、カップそのものだけでなく、その時間も気に入っていたのだと思います。
それなのに、今は棚にしまったままです。
なぜ使わなくなったのかと考えると、単に忙しくなったから、というだけではない気がします。あの頃は、カップを出してコーヒーを飲む時間を、自分で先につくっていました。
時間が空いたらゆっくり飲もうと思っていても、なかなか空きません。先にカップを出して、コーヒーをいれる。そうしてはじめて、その時間ができていたのかもしれません。
今回、展示を見て、ワイルドストロベリーで紅茶を飲み、ショップでフェスティビティを眺めたことで、またお茶を楽しみたくなりました。
備前の美術館から、家の棚へ
ヨーロッパの陶磁器を見に行ったはずなのに、最後に考えていたのは、自宅の棚にしまったカップのことでした。
展示室で見た大きな作品から、カフェで手に取ったワイルドストロベリー、ショップで見たフェスティビティへ。ティーカップ・メリーゴーラウンドという名前の通り、器をめぐっているうちに、気づけば自分の暮らしの中にある一客まで戻ってきていました。
今日は久しぶりに、あのカップを出してみようと思います。
開催情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 展覧会名 | 岐阜県現代陶芸美術館コレクション「ティーカップ・メリーゴーラウンド ヨーロッパ陶磁にみるモダンデザイン100年」 |
| 会期 | 2026年7月4日(土)~9月27日(日) |
| 開館時間 | 9:00~17:00(入館は16:30まで) |
| 休館日 | 月曜日(7月20日、9月21日は開館)、7月21日(火)、9月24日(木) |
| 会場 | 備前市美術館 2階展示室1・2・3 |
| 観覧料 | 一般1,000円、大学生・専門学校生・高校生800円、中学生以下無料 |
| 所在地 | 岡山県備前市伊部1659-6 |
| 公共交通 | JR赤穂線「伊部駅」から徒歩約1分 |
| 駐車場 | 美術館東側の専用駐車場、または近隣駐車場を利用 |
観覧料には、ほかにも各種料金や減免があります。開館日、関連イベント、撮影可能な範囲、カフェメニュー、コースターの配布状況、ショップの商品などは変更される場合があるため、来館時は会場の案内をご確認ください。
最寄りの交通情報を取得中...
こちらもどうですか?
館内の回り方
1階には無料で見られる展示スペースが2つあり、その奥にミュージアムカフェがあります。館内にはロッカーも用意されています。
今回の特別展会場は2階の展示室1・2・3です。展示を見てから1階へ戻ると、そのままカフェとミュージアムショップへ立ち寄れます。

周辺も回るなら
美術館の周辺には、備前焼の窯元、アトリエ、ギャラリー、販売店が点在しています。西洋陶磁を見たあとに伊部の町を歩くと、備前焼の土の色や表面の質感にも自然と目が向きます。
時間に余裕があれば、赤穂線で日生まで足を延ばしたり、伊部駅北口のゴールドポストなど、備前市内のスポットを巡ったりすることもできます。すべてを詰め込まず、その日の時間に合わせて一つ加えるくらいがよさそうです。
\この記事をシェアする/
















